不育症診断における抗核抗体の意義
不育症は1-2%の女性に見られ、その原因は抗リン脂質抗体症候群・子宮奇形・親の染色体異常・胚の異数性などがありますが、原因が特定できていないことも多いとされています。自己免疫疾患による悪影響は以前から指摘されており、最も一般的な自己抗体は抗核抗体です。高力価(>160)の場合は、SEL・全身性硬化症・シェーグレン症候群などの自己免疫疾患と強く関連しており、これらの疾患では妊娠中の有害事象と関連していることが分かってます。
2022年のヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)によるガイドラインでは、原因解明を目的とした抗核抗体検査を条件つきで推奨していますが、アメリカ生殖医学会(ASRM)では推奨されていません。健康な女性でも抗核抗体が低力価で陽性になっていることがしばしばあり、不育症患者と健康女性との間で抗核抗体陽性率に差があるかどうかについては意見が分かれています。
これまでの報告はサンプルサイズが小さく、妊娠予後に対する抗核抗体の影響・臨床的価値については、まだ結論が出ていませんでした。今回の論文(Hum Reprod.2025;40:236-243)では、抗核抗体を不育症のスクリーニングとして推奨するべきかどうか、また、抗核抗体が不育症患者の生児出産に影響を及ぼすかどうかについて調査しています。
抗リン脂質抗体・甲状腺機能・糖尿病に関する血液検査と、両パートナーの染色体検査で異常がなく、子宮奇形のない1021人の女性において、抗核抗体(>40)の有無で生児出産率を比較したところ、抗核抗体陽性群で72.5%(256/353)、陰性群では73.2%(489/668)でした。健常対象群と不育症患者群の抗核抗体陽性率は比較できなかったものの、原因不明の不育症患者における抗核抗体検査は、将来の妊娠喪失の予測には利用できないことが示唆されました。