乳がんに対する新しいホルモン治療薬の開発
女性ホルモンは乳がんの発生に関与していますが、排卵後に出てくる黄体ホルモンも同様に発がんに寄与しています。BRCA1やBRCA2の変異がある方は80歳までに約70%が乳がんになりますが、現在行われている乳がん発症予防は乳房切除や卵管卵巣摘出であり、手術ではない方法は女性ホルモンに対する受容体に作用する薬剤の使用のみで、閉経前であればタモキシフェンだけになります。実際にアメリカやイギリスでは乳がん予防として承認されています。ところが、乳がんによる死亡率を低下させる効果や、BRCA1変異で最も多いトリプルネガティブ乳がんに対する効果は明らかになっていません。
黄体期には乳腺上皮細胞が増殖し、黄体ホルモンは予後不良乳がんの発生につながるluminal前駆細胞の増殖を促進させ、BRCA1の変異がある場合には黄体ホルモンの分泌レベルが高いことが分かっています。黄体ホルモンの受容体に作用するミフェプリストンは乳腺上皮の増殖を抑制することから、乳がん予防に有効である可能性が指摘されており、限られたデータですが、げっ歯類とヒトでその効果が確認されています。しかしながら、この薬剤は人工妊娠中絶薬として使用されており、処方制限があることや特許上の制約で、乳がん予防のための開発が進んでいません。
2024年9月にオーストリアでBRCA1変異を有する女性に対するミフェプリストンの予防投与などについて、国際会議がひらかれました(Lancet obstet. gynaecol. women's health.2025;vol.1:e146-8)。
ミフェプリストンの安全性と乳がん予防の有効性を評価するためには、大規模な臨床試験が必要ですが、その場合は遺伝的リスクはないけれど肥満や家族歴などの乳がんリスクがある集団も含めたほうが、より広範な集団に利益をもたらすかどうかを明らかにすることができるでしょうとのことです。現状では薬剤入手に厳格な規制や法的障壁などがあり、政治的支援や各方面の意識改革が必要です。
