新しい月経困難症治療薬
いわゆるピル開発の歴史は、女性ホルモンと黄体ホルモンの合剤が排卵を抑制することに気がついたことから始まります。天然型の女性ホルモンには4種類ありますが、これまでの全てのピルで使われているのは、活性の強い天然型ではない合成されたエチニルエストラジオール(EE)です。1960年代から高容量のEEと合成黄体ホルモン(プロゲスチン)による製剤が開発されましたが、副作用(主に血栓症)のため、1978年から中用量のEEを含む製剤が発売され、その後低用量、さらに最近では超低用量の製剤が主流となっています。血栓症がおこるメカニズムは、EEが肝臓で代謝される際に血液を固める作用がある物質の合成を促すことや、プロテインS産生を抑制することです。
エステトロール(E4)は胎児の肝臓のみで作られている天然型の女性ホルモンで、上記の血栓症リスクが極めて低いという特徴があります。胎児期に作られるホルモンだからなのか、神経新生や脳血管新生との関与が示唆されており、脳虚血疾患の治療に応用できる可能性も報告されています。さらに乳腺組織や上皮細胞の増殖が少ないことから、乳癌発生リスクも少なくなることが予想されます。諸外国では2021年から経口避妊薬として使用されていますが、日本では2024年12月から生理痛の治療薬として使えるようになりました。ほとんどの代謝酵素を阻害しないことから、これまで併用できなかった抗てんかん薬も一緒に使えるようになります。
もともと女性ホルモンが黄体ホルモンと一緒に併用された理由は、排卵抑制作用が黄体ホルモンだけでは弱いことや出血しやすいためですが、子宮内膜症にとっては女性ホルモンは悪影響を及ぼします。専門的になりますが、E4は子宮内膜症が進行するのを抑制する効果があり、プロゲスチンとの併用で子宮内膜症の抑制がさらに効果的になりそうです(Endocr J.2024;71:199-206)。