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早川智先生の特別講演②

[2024.10.27]

前回の続きになりますが、早川先生のメインテーマは生殖免疫で、特に生殖器の粘膜免疫です。腟内環境がLactobacillus crispatus優位である場合、性感染症である頻度が高いことから、一般にはLactobacillus crispatusは悪い状態の指標であると考えられているようです。これに対して、チームの高田先生は腟内細菌叢自体が粘膜の修復に働くのではないかと考え、検討されました。その結果、様々な乳酸菌の中でLactobacillus crispatusのみが扁平上皮の修復に働くことを明らかにしています。つまり、一見すると悪玉のように見えていた乳酸菌は、実は善玉菌だったということになります。
最近の不妊不育治療において、次世代シークエンサー(NBS)を用いた遺伝子診断で乳酸菌属が少ないことを根拠に、広域抗菌薬を投与する治療法が流行しています。しかしながら、①慢性感染症とDysbiosisはオーバーラップするが全く別の病態であり、NGSだけでは診断できないこと、②Lactobacillusは種、さらには株によって生物活性が異なり、属レベルの診断は根拠に乏しいこと、③Lactobacillus crispatusは「いわゆる慢性子宮内膜炎」で汎用される薬剤に感受性があり、抗生剤で都合よく病原細菌のみが退治されるとは限らないことを挙げ、「慢性子宮内膜炎の一部が細菌性であるとしても長期間広域性の抗菌薬を投与することはテロリストを倒すために無差別爆撃を行って一般市民を犠牲にするに等しい。」と警鐘を鳴らしています。炎症マーカーであるCD138を指標とした慢性子宮内膜炎に対する抗菌薬投与は妊娠予後を改善しないというメタアナリシスなどを挙げて、慢性子宮内膜炎の診断と治療が今後変わっていくことを期待されています(Acta Obst Gynaec Jpn.2024;76:867-878)。

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