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肥満による不妊症・妊娠への影響

[2025.05.31]

肥満は不妊症と関連し、妊娠においては自然流産、先天異常、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、および死産のリスクを増加させます。今回は海外で使われた薬剤と肥満に関する情報です(Obstet Gynecol.2025;145:286-296)。

肥満であると、「だらしなくて自己管理能力が低い」と見なされる風潮がありますが、日本肥満学会によると、「現代人の肥満は自己責任ではない」ようです。社会環境の変化(交通網や車社会の発展、ネット社会の発達、コンビニや手軽な飲食店の増加など)は個人の努力とは無関係であり、肥満原因の約3割は脂肪を蓄積しやすい体質であると言われています。1994年に肥満遺伝子が報告され、確かに遺伝的に太りやすいことも分かってきましたが、肥満原因の7割が環境要因ですので、食生活や運動習慣など肥満になりにくい環境を整えることができればの話ですが、肥満は予防することができるとも考えられています。なお、日本ではBMI 25以上を「肥満」としていますが、WHOの基準ではBMIが25以上は「過体重(Overweight)」、BMI 30以上が「肥満(Obesity)」としています。日本の基準がWHOと異なる理由は、アジア人はBMIが高くなくても内臓脂肪の蓄積等により、健康障害のリスクが顕在化しやすいからです。また、「肥満」と「肥満症」は異なります。「肥満症」とは、肥満による11種の健康障害(合併症)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に診断され、減量による医学的治療の対象になります。

肥満症の治療は当然、減量することですが、その基本は、食事・運動・行動療法などのライフスタイル改善療法です。集中的な生活習慣への介入により、体重を7~10%減少させることができるようです。食事・運動療法は続けることが何よりも大切で、かつ難しいことは周知の事実でしょう。その次に薬物容量と外科療法になります(もちろん食事・運動・行動療法と併用です)。薬物療法のみで治療したい、と思う人が多いかもしれませんが、現在、日本で肥満症治療薬として保険診療で使えるのは食欲抑制薬であるマジンドールで、しかもBMIが35以上の高度肥満症に限定されています。ちなみに、糖尿病の薬であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬により、15~20%の体重減少が見込まれるようですが、本来の目的ではなく、安易なダイエット目的に使われることで、日本では必要な患者さんに行きわたらなくなったことから、厚生労働省から適正使用を求める勧告が出されました。最近では、新しい皮下注射の薬が出てきています。

GLP-1受容体作動薬には、満腹感の増加、視床下部を介した食欲減退、胃排出遅延など、体重減少をもたらすさまざまなメカニズムがあります。また、グルコース産生を調節し、食後のインスリン分泌を増加させ、さらには炎症を抑制しながら脂肪分解を増加させます。GLP-1受動態作動薬や消化管ホルモンを標的とする薬剤は減量達成に有効ですが、妊娠中は禁忌です。

肥満と不妊の関係には、少なくとも3つのメカニズム(①排卵を妨げ、プロゲステロンレベルを変化させる調節異常によって引き起こされる無排卵、②脂肪組織が炎症性サイトカインを分泌することで細胞機能が変化すること、③過剰な脂肪組織による卵胞液組成の変化により、卵子や場合によっては胚に悪影響が及ぶ可能性)が報告されています。さらに、BMIが高いほど排卵誘発剤に対する反応性が低く、投与量が多くなり、採卵率も低下します。動物実験では、肥満によって卵子の質が低下することが示されています。
不妊症と肥満女性における、GLP-1受容体作動薬の研究では、併発する多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の不妊女性において、体重減少や月経周期の規則性の改善に加えて、炎症マーカーの低下も報告されています。現在のところまだ限られたデータであるため、さらなる研究が必要のようです。
ちなみに、BMIが高い男性は乏精子症や無精子症の割合が高く、テストステロンのレベルが低下していることが知られています。14週間の減量プログラムに参加した男性を対象とした小規模な研究では、15%の減量で精子数、量、テストステロンレベルの改善が認められましたが、こちらもさらなる研究が必要です。

現在のところ、妊娠中は内服禁忌となっていますので、妊娠中の曝露についての十分な研究はありません。2型糖尿病患者でGLP-1受容体作動薬に曝露した938人の妊婦についての報告がありますが、生児のみが対象の小規模研究でもあり、出生時体重や出生後のデータがないことから、今後の研究が必要とのことです。ちなみに重大な先天奇形の発生率は8.2%であり、インスリンで治療した妊婦では7.8%、非曝露群では4.7%でした。次に大きな規模の研究においては、妊娠初期に曝露された168人の妊婦において、先天異常の発生率は2.6%であり、2型糖尿病群2.3%、過体重・肥満群3.9%と比較しても差はなかったようです。

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