出産後の抜け毛の話題
出産後の抜け毛について、東京科学大学の廣瀬明日香先生が今月の日産婦医会報に寄稿されていた内容の一部を紹介します。
出産後に一時的な抜け毛が増えると言われていますが、これに関する研究はあまりされておらず、論文数もとても少なく不明な点が多くあるそうです。研究論文は1960年代および2000年代にいくつか発表されている程度ですが、このメカニズムは妊娠中の毛周期の変化と考えられており、「妊娠中に抜けるべき髪が抜けず、分娩後にまとめて抜ける」現象で、休止期脱毛に分類されるようです。妊娠中は成長期が延長し、分娩後は休止期に移行します。この時期に一気にドサッと抜け落ちるので、びっくりしますよね。
抜け毛の量には個人差があり、頭部全体が抜けたり長期に抜けたりする場合もあるようです。廣瀬先生のグループの調査では、多少なりとも抜け毛があったと感じた人は91.8%で、頭部全体から均等に薄くなるため気づかれにくいのですが、本人は悩んでいるかもしれません。抜け毛は出産後2~4か月頃から始まり、半年から1年程度続くと言われているとのことです。
これまで、出産後の抜け毛の原因は女性ホルモンの変動と推測されていましたが、実際にホルモン値との関連を示した論文はありません。精神的ストレスや、睡眠不足など、複合的な要因が関与しているのでしょう。アンケート調査では、授乳期間の長さが抜け毛の独立した予測因子だったそうです。授乳期間が半年未満のグループと比較して、半年~1年間のグループ、1年以上のグループでは、抜け毛が生じる調整オッズ比はそれぞれ5.96と6.37でした。やはりホルモンとの関係がありそうです。
これまで、治療法について検討した研究があり、甲状腺ホルモンの補充や、局所的なプロゲステロンやエストラジオールの塗布、低用量経口避妊薬が調査されてきました。残念ながら、今のところ確立された治療法はないようです。ただ、産後5ヵ月が抜け毛のピークであること、産後8か月頃には落ち着くであろうこと、という情報で不安が解消できる可能性があるとのことです。